心底

心から、ごめんねって言いたい事があった。
彼が、どんな思いで医学部を受験するのか。
それを今日知って、涙が出そう。
彼は、今年でもう4年、浪人している。
でも、今までどこにも受からなかったのではなく、中大の法学部とか慶応に受かってて、それを蹴ってでも浪人し続けている。


あたしには、それが全く理解できなかった。
彼は、あまり自己の感情や信念を表に出さない人。
淡々と、「法学にも興味あったけれど、本当にやりたいことじゃないんだー。」って言っていて。
浪人費用は、自分でバイトして稼いで生活していた。
彼は洋服が好きで、それもバイト代で買ったりしてたから食費はかなり削っていて、体はぼろぼろだったんじゃないかな。
でも、あたしはそんな彼が弱い所を出したのを見た事はない。
いつもどこか、余裕がある感じがした。
「浪人で、やっと貪欲に学ぶ姿勢ができた。」って言ってたし。
でもそれも今思えば、彼自身を納得させる強がりだったのかもしれない。
でも、単純なあたしは、なんか真剣味のない変な人だなとしか思ってなかった。
今年医学部を受験するのでも、きっと毎年受験していくうちに勢いづいてランク上げていって頂点極めたくなっただけなんじゃないか?4年も浪人すりゃあそりゃ偏差値85なんてとれるに決まってるし、そんな人に医者は務まるわけないわよ、だいたい、東大医学部は中高一貫進学校のおぼっちゃんばっかりなんだからさー。無駄な抵抗はやめればいいのにって、ずっと思ってた。


そんな彼が、センター試験当日、ストレスから胃痙攣を起こし、未受験に終わった。
センター追試を終え、滑り止めの私立大獣医学部受験日となった今日、こんなことを言ってた。
「私大は受けない。私立の医学部は経済的に無理だし、獣医学部は、本当に獣医になりたい人に対して失礼になっちゃう。それを今日オヤジに電話して伝えたら、とことんやれって言ってくれたよ。ありがたいよ。
オレは、小児科医になって、世界中の子供たちを癒す事でしか満足できない。絶対、医者にならなきゃいけないんだ。」
すごく、びっくりした。
彼にそんな強い信念があっただなんて。
これはきっと、彼が遠回りした中で模索し、見つけた夢なんだな。
へらへらなんてしてなくて、本当は多浪がものすごくプレッシャーになっていたり、働きながら浪人する事の心身の疲労で辛くて辛くて仕方なかった事。


彼に、心の中でごめんねって言った。


そして、医者になってほしい。
心の底からそう思った。




BGM*thee headcoats/best